頭痛と腹痛

 幼少期から馴染みの二大体調不良として、頭痛と腹痛と言うのがあります。大抵の人は経験したことがあり、日常生活の中でも割と頻繁に襲ってくる、ポピュラーな病魔です。
 これに仮病を足して三大体調不良とすることもありますが、仮病は本当は病気じゃないから除外します。ポピュラーだけど。人によっては頭痛や腹痛よりも。
 さておき、頭痛と腹痛の話。人は頭痛になると「頭痛がひどくて」とか「頭が痛くて」と表現します。腹痛の時は「お腹の調子が悪い」とか「お腹を壊した」とか表現をします。
 この、「お腹を壊す」という言い方。これって、病気の中でも腹痛の時に使われる、ちょっと特有の言い回しなのではないでしょうか。
 ケガの時には「肩を壊した」とか「ヒジを壊した」とか言うこともありますが、病気で「壊す」ってあんまり言わないですよね。ケガで「壊す」と言うときだって、かなり深刻な場合が主ですが、腹痛における「壊す」はもっとカジュアルなイメージです。立食パーティーぐらいの気軽さがあります。リッツパーティーぐらいの気軽さがあります。リッツで立食パーティーぐらい気軽。そのリッツの上に白子の天ぷらとスイカジュレが載っていたら、多分お腹を壊します。話を戻します。
 腹痛の「壊す」は、他の傷病の「壊す」とは違ったもののように聞こえます。
 例えば頭痛を「頭を壊して調子が悪くてさ」って言うと、ちょっと危険なムードが漂います。これはただの頭痛じゃない。いつ奇声を発したり明後日の方向に走り出してもおかしくない、頭痛とは違う何かがそこにある。
 「肺を壊した」「背中を壊した」「右足を壊した」「耳を壊した」いずれも同様です。「苦しい」とか「痛い」とか「調子が悪い」とかに言い換えれば不穏さはかなり減りますが、どうしてもお腹と同じ土俵に上がってこれない。
 じゃあ何故お腹だけが「壊す」ことを許されるんだろう。
 これはおそらく、二大体調不良の中でも頭痛よりも腹痛の方が、子供の頃に発症しがちだからではないでしょうか。「お腹具合悪いの?」とか「腹痛なの?」とか子供に聞くより、「お腹壊したの?」が通じやすい。「お腹痛いの?」だと腹に怪我を負っていることを尋ねられているようにも聞こえてしまうけれど、「お腹壊したの?」だと、胃腸の不良を尋ねられているのだとわかりやすい。
 頭痛はどちらかと言うと大人の病気のイメージがあるので、二大体調不良でも「頭を壊す」という言い方が「お腹を壊す」に並べないのではないでしょうか。
 まあ、子供が「頭が痛いよ」って言っているときは、たいてい超能力の発現の前触れだったりしますしね。セールスマンが訪ねてくるのを壁越しに見かけた後とか、ピーナツバターの入ったタッパーウェアを宙に浮かせた後とか。
 一応「お腹を壊す」に並びやすいように「頭」の部分の表現をちょっと変えてみて「おつむを壊す」ってのも考えてみたんですが、これは更に危険度とかわいそう度がアップして逆効果だと思います。
「今日は朝からおつむを壊してるなあ」
「ちょっとあなた大丈夫?」
「あまり大丈夫じゃないよ」
「あまり大丈夫じゃないみたいね」
 こうなります。