穴という穴にからしを

 少し前に親戚に不幸がありまして、両親が田舎の熊本に数日帰省しました。自分は締め切りが重なっていたのと、「わたしたちが行くからあなたは来ないでも大丈夫よ」と親に言われたので、自宅待機をすることにしました。
 その後、熊本から関東に戻ってきた両親が、熊本名物のからし蓮根を買ってきたという。「家で消費しきれないからあなたも食べなさい」と言われ、からし蓮根をいただくために両親の元へ。
 その流れで、実家に置き去りにしておいた超人ロック・ヒットコミックス版全38巻を読み返し始めたら、面白いのなんの。小学生〜高校生ぐらいまで熱心に読んでいた古いマンガなんですが、懐古趣味だけじゃなくて単純に話がすごく面白かった。むしろ若い頃に読んでたときより面白さが増してる感じ。
 さすがに「それはどうよ」と思う場面も多々あるものの、本質的な面白さはしっかりと全編に敷き詰められています。30年も40年も前のマンガのくせに、やるな。さほど知名度も高くなく、それほどファン層も厚いわけでもないのに、いまだに連載が続いているのも頷けます。
 『若返りを繰り返す最強の超人エスパーを主人公にした、一千年以上にも及ぶスペース・オペラ』ってアイデアで既に半分は面白さ約束されてるもんなー。タイトルも良いし。長期連載マンガのアングラヒーローとでも言いますか。
 余りに面白かったので、実家にいる間に読みきれなかった分を手提げ袋に詰めて、荷物にならない程度に持って帰りました。それと自分の分のからし蓮根。あとついでに、実家にあったけど使ってないから余ってるって言う薬をいくつかいただいて、袋パンパンにさせながら帰宅。


 帰りの電車の中、右手には傘、左手には大きな袋。その状態で携帯に着信があったので、誰からの連絡なのかだけ確認しようと思ってポケットに手を伸ばす。
 手が滑って、持ってた袋がドサー。
 中身も全部床にドバー。
 拾い上げようとしたら傘が勢い良くカツーン。音でいっせいにこっちを向く乗客。
 古ぼけて色あせたコミックス十数刊と、花粉症の薬とおなかの薬と痔の薬と睡眠薬と、ラップに包んだからし蓮根を床にぶちまけて、おたおたする中年男。
 親戚の不幸があったのに熊本に行かなかった僕に、からし蓮根のたたりがあったんだと思います。皆さんもからし蓮根のたたりには重々お気をつけください。