R−1GP2009

 なんとなく夕方のニュース見てたらその後R−1ぐらんぷりが始まってビックリしました。ゴゴゴゴールデンでやるんだ? お笑いブームが終わる終わると言われて数年経つけど、今更このイベントがゴールデン進出するとは思わなかった。
 せっかくなので見ました。録画しての見返しなどは一切していないので、記憶に頼って以下、雑感。長いので畳みます。


 R−1はM−1に比べて肩の力を抜いて見れるというか、良い意味でグダグダな感じが好きです。雨上がりの仕切りもそれに拍車をかけているのかも。ガチの緊張感を感じられるM−1とゆったりとネタを見れるR−1という認識です。だけどゴールデン進出でやってるっていうことは、今後もっとガチガチになっていくのかなあ。
 優勝は中山功太。準優勝はエハラマサヒロ
 個人的順位は次のような感じですが、4位以下はほぼ同列。大爆笑はしないけれど、全体的にネタの完成度がすごく高かったように思います。
 1.バカリズム 2.夙川アトム 3.COWCOW山田よし 4.あべこうじ  5.鬼頭真也夜ふかしの会) 6.中山功太 7.鳥居みゆき 8.エハラマサヒロ 9.岸学 10.サイクロンZ
 フリップ芸が夙川アトムバカリズム、COWCOW山田よしの三名(夙川アトムは正確にはフリップ芸じゃないけど)。
 分類が難しいけど、コントが岸学エハラマサヒロの二名。音ネタがエハラマサヒロとサイクロンZ二名。
 動きメインがサイクロンZ一名。あるあるネタはほぼないものの、中山功太が一番近いか。
 各人のネタのばらつきが顕著で、まったく飽きませんでした。個人的にはフリップ芸が余り好きじゃなくてコントが好きなんだけど、自分でつけた順位とは逆転してるのは不思議。


夙川アトム
 多分点数的には最下位だったと思うんだけど、かなり完成度も面白さもオリジナリティも高い人だと思います。トップバッターなので点数的に不利だったような気が。逆に考えると、この人がトップでしっかり客席を沸かせてくれたので、その後の演者の点数が伸びたのかもしれません。
 古い業界人のキャラクターで押しつつ、それだけで全体をもたせるのは間延びするのでフリップで紙芝居を展開させるネタをはさむ。これをメインに据えるのかと思いきや、ところどころ謎の電話がかかってきてネタの間にクッションが入る。電話のネタの間にも紙芝居を進行させて、相乗効果を生んでいる。ひとつのネタでふたつのネタを詰め込んでいる形になっているのに、見ている人が混乱することもない。それでいて強烈なキャラクターを印象付けることにも成功している。芸暦が短いと聞いているのですが、相当練りこまれたネタだと思います。
 そんな感じなので、何度も見ているネタなのに笑いどころできっちり笑ってしまいました。「ちゃんばードーン!」とか。キャラを立てているのは昨今ネタ番組以外にも出る際にとても重要な要素なので、R−1の視聴率によっては今後各方面で活躍できるのではないでしょうか。


岸学
 24のネタをピンで披露。個人的に好きな人だし好きなネタなので、好意的に受け止めながら見ました。
 ピンならではの良さや、ひとりだからこそ重要なネタ完成度が、ほかの人に比べて一歩劣っていたのではという感想でした。だけど面白さで言えば今回の出場者の中でトップランクだったと思いますし、他の出場者の完成度が高すぎるせいで比べられているだけな気も。
 ある意味安心して見れるのはこういう人だと思うんですけどね。テレビ的にも番組に呼びやすいでしょうし。


バカリズム
 この人のネタは一貫性があって、一言で語れるのが良いですね。今回は「教師が各県をどう持てば良いのかを生徒に語るネタ」。設定はシュールだけど内容的には「ああ、わかるわー」という感じでわかりやすい。
 最初にふたつ続けてただ単に県をどう持つかというネタを出してきたときには「大丈夫かな」と思ったんですが、その後の徐々に盛り上がっていく感じは見事。上がりすぎず、かといって上がらなさすぎず。この傾向でネタを作り続けている事による、腕前の差みたいなものを見せ付けられました。
 確実に一番面白かったし、ネタの完成度も非常に高かった。オリジナリティも高いしネタの練習量も感じられるし、キャラに依存しての力技もない。フリップ芸は手垢がついている気がしますが、そもそもこの人も『トツギーノ』によるフリップ芸の第一人者のひとりだし、教師という設定があるので無意味なフリップ芸ではない。清水ミチコの100点に自分も追随します。


エハラマサヒロ
 何度も何度もこのネタを見ているので、ちょっと飽きてしまっているというのが正直な感想です。はじめて見たときの印象を思い出しつつ、それからどの程度レベルアップしているかなどを考慮に入れつつ見ていたんですが、僕の中ではそれほど高評価にはなりませんでした。
 音ネタに対して自分が厳しいというのもあるんでしょうが、バカリズムより上という印象はなかったです。バカリズムがやたら受けてお客さんがあったまっていたせいで、いつもより受けていた印象もあります。
 音ネタは音楽と笑いの相乗効果の気持ちよさがまず先に出てしまうので、単純なネタ勝負で考えるとイマイチ遅れを取っている感じがするんですよね。他にも引き出しがたくさんある人なので、色んなネタを見たかったという気持ちが残ります。


<サイクロンZ>
 動きメインのネタ。きびきびした動きとネタの完成度は見事でした。とても面白かったと思います。「愛のままに〜」のネタは本人も押してましたけど、確かに面白かった。
 個人的順位で最下位にしてしまったのは、このネタが初見だったので「何回も見たら果たして同じぐらい面白いだろうか」というのを考えたら順位が下がってしまったのと、ネタのつなぎの部分の喋りやキャラクターがあまり確定していなかったのがマイナスに働いたからです。
 でも、岸学評価にも同じようなことが書いてありますが、こういうかっちりしすぎていない人の方がバラエティ番組などで何度も見るには良いような気がします。逆にバカリズムのような人はバラエティに呼びづらいですよね。


鳥居みゆき
 完全にえこひいきですが、個人的には最高でした。だけど絶対に優勝しちゃいけないよこの人! と思ったのでランク下げました。
 力技やキャラクターで押し切っているように見せかけて、実はかなり技術的なことを仕込んでいるのが相変わらず見事だなと思います。ネタの完成度やストーリー性は、実は友近などの芝居寄りのコント芸に近い。江川達也が「一番ストーリーの構成力はありますよね」と評価していたのはまさにその通りだと思いました。
 ところどころネタの意図がわかりづらいところがあったのが残念でした。全然キャラと違うけど、なんだか策士が策に溺れているような印象も。
 そろそろ最近「美人なのにこんなネタやるんですね」的なコメントが減ってきていますが、僕はこの人は「自分が美人であることを密かにネタ内に織り込んで笑いを増幅している」と思っています。今回もこっそりその辺がネタの中に混ぜられていて、「女が必死だと引くなあ」という印象が弱められているのが上手いと感じました。


鬼頭真也夜ふかしの会)>
 名前も顔もネタも、完全に初見の人でした。面白かったです。「スラムダンク、メガネが良いシーンでスリーポイントを決める」には大笑いしました。
 だけどどうしても元ネタを知っていないと笑いに繋がらないという展開になりがちなのがちょっと残念ですね。24見てないのに岸学のネタは楽しめるけど、この人のネタは元の作品を知らないとあまり楽しめないタイプです。番組中でも指摘されていましたけど、ネタとネタの間に客を緩和させる間がないのも、芝居出身の人がピンでやっている典型的な問題というか。
 それでもこのネタの伸びしろはかなり高いと思いますし、ネタとネタの間に上手くすかしを入れられればもっと面白くなると思うので、僕の評価は高めです。他のネタも今後見てみたいなー。


<COWCOW山田よし>
 まさかのCOWCOWピンで、しかもツッコミの人が。去年も決勝に出ていたらしいですが、去年はラストしか見ていないので知りませんでしたよ。
 滑り出しがイマイチな感じで、つけなくてもいいキャラクター設定のせいで声がぼそぼそ、フリップの絵をどう読ませるのかを声で伝えないといけないのにそれが聞き取りづらい……とだいぶ「あちゃー」な感じ。
 しかし尻上がりに面白くなっていき、フリップ(正確にはフリップじゃないけど)の使い方もさまざま。はずし方やネタごとのクッションの置き方、「そろそろこう来て欲しい」と言うところでの確実に期待に応える天丼など、芸暦の長さが培った熟練のセンスが光っていました。
 うまい! の一言。ただしそれが大笑いに繋がっていたかというとそうとも限らないので、ちょっともったいないです。


あべこうじ
 エンタで見たときのマイナスイメージが強いので、あまり期待しないで見ていました。最初からマイナス評価で始まったのは、前出のCOWCOW山田よしと同じ。
 しかし話自体が圧倒的に上手く、場の馴れも手伝って、内容はかなりの高レベル。ある意味一番ピン芸人らしいその存在は、何故かこの番組で貴重な存在になってましたね。ピン芸人の対決なのに、いわゆる漫談をしているのがこの人ひとりなんだもの。
 ずぶぬれの犬の使い方もうまい。何の道具も使わずにここまでやり遂げるのは、すごいです。


中山功太
 家がアホみたいに金持ちだからお笑いでもやってみようと思ったというこの人、優勝して500万円持っていきました。お金がお金持ちに集まる!
 優勝するほどに面白かったり、ネタの完成度が高かったりという感じは……なかったです。声質が聞き取りづらいのもピン芸人としてはちょっともったいない。ネタ自体は結構面白かったですけどね。
 あるあるネタのようなものをどういう形で見せていくとより面白くなるかというのは、この人がずっと追求しているものなのかもしれません。このネタはそういう意味では成功していたような。
 先にツッコミを入れてしまってその後にボケるというパターンも新しいですし、ネタの間に一回仕切りなおしの時間を入れるのも悪くないと思います。仕切りなおしの時間が長すぎて、立て続けにマシンガンのように笑わせる面白さがないのが残念ですが、どこから見ても同じ面白さがあるというのはいまのテレビ的には受ける気もするなあ。そういう意味では天津木村とかに近いですね。


<総評>
 とまあ、あれこれ語ってみましたが、見ているときはそんなに真面目に見ているわけでもないです。最初にも書いたとおりに、2時間肩の力を抜いて見ていました。そもそも僕は作品に触れるときに、「これをどう評価してやろうか」と念頭に置くんじゃなくて、ただ単に楽しむのをメインに据えて鑑賞するようにしているのです。批評のために作品に触れるのはナンセンスです。
 だけど審査員はそうもいかない。何が良くて何が悪いかを考慮して、審査しないといけない。ましてや全部見てから順位をつけてるんじゃなくて、その場その場で点数という絶対値で応えないといけない。めちゃ大変ですね。
 だから僕はこういった企画で順位が自分の期待するものと違っても、仕方ないことだと思うようにしています。だんだん疲れてくるんだから審査員の目が公正さを失ってくるのはしょうがない。
 そんな場で今後の仕事や生活を左右するような審査を下されるんだから、芸人さんも大変ですよね。


 だけどなんだかんだで視聴者は、ちゃんと何が面白かったのかとかを理解しているんじゃないでしょうか。
 M−1以降オードリーの露出は異常です。僕は今回のR−1をきっかけに、バカリズムの評価が決定的なものになるのではないかと予想しています。