「トントー! トーント!」

 正式に芸術だと認められているのは確か五つしかないんだよね、なんて話をこの前、役者の赤身マグ朗としました。芝居とかは芸術分野なんだよね、と。
 演劇、音楽、絵画、彫刻ときて、もうひとつがどうしても思い出せずに、話はその場で終わりました。
 良く考えたら詩歌ですね。詩人なのに何をやっているんだ僕は。

※ネットの力を何も借りずに記憶だけで書いているので、上の分類が完全に間違っている可能性もあります。鵜呑みにするよりは自分で調べてみよう!(NHK教育の博士キャラ風)

 で、ここに映画も加えて、六芸術にしたらどうだなんて話で、いろいろもめたことが昔あったらしいんですが、今のところ映画は芸術に入っていないようです。
 そして芸術カテゴリなのに、そんな映画の話からまずはスタートしてしまうのです。

『ハリーとトント』(1974)
 この映画は、僕のベストに入る映画です。少しだけ色眼鏡が入ってますけど。
 まず僕は『老人』と『動物』という要素に弱いということを、よく憶えておいてください。
 この映画は、老人とねこが旅をする、ロードムービーなんですよね。ほら、もうなんか色眼鏡入りまくりそうでしょ。でも、すごくいい映画です。

 これが予告編。雰囲気だけでもつかみとっていただければなと。てか、これで動画貼れてるんでしょうか。ドキドキです。

 改めて内容に。
 茶トラねこに首輪と紐をつけて、散歩を楽しむ老人。その名はハリー・クームズ。
 あれやこれやと理屈をつける偏屈振りと、知識と落ち着きを持ったその風貌は、理想的な年の重ね方です。
 社会や体制に文句を言いつつも、イスに座って断固動かないところを無理やりに立ち退かされて、仕方なく家族の下へ。
 しかしハリーは家族の分裂や自分の居場所、何より愛猫トントの住処のために、ひとりで旅に出ることにするのです。
 知人の老人との別れ、トントを一瞬見失ってしまい狼狽する姿、無言の行を続けて変人扱いされている孫、ヒッピー気味の女性とのヒッチハイクの旅、ネイティブアメリカンとの出会い、介護施設でのかつての恋人との再会など……さまざまな経験をして、老いた男と老いたねこは、旅を続けていくのです。
 そして、最後にはなんとも形容のしがたいエンディングが待っています。人によってそれがハッピーエンドにも悲しい終りにも見えるでしょうが、感動することは間違いありません。

 僕は年を取ったら、ハリー・クームズになりたいとずっと思っています。そしてこのまま生きつづけていれば、きっとそうなるでしょう。
 そしてそのときこそ、僕は本当に人の役に立てるのかもしれません。「若いの、やってるな。わたしも昔はそうだった」。
 ちなみに筒井康隆は、昔コラムで『役者としてテレビなどに出て、若い人と触れ合うことについて』ということをこんなふうに書いていました。

「年長者であるからあれやこれやと若い者に口出しをするべきものではない。ただ老人は、そこにいればいいのだ」

 それもひとつの正解だと思います。
 人生訓がいやというほど詰め込まれたロード・ムービー、ハリーとトント。とにかくトントが自然でかわいいので(何の演技もせず、一緒にいるだけ)、ねこ好きなだけの人にもお勧めの映画です。
 人生に戸惑ったら、老人のパワフルな偏屈さを是非ご覧になってください。