少しだけ生命的な話

 僕は世の中で最も辛いのは失恋だと思うんですよ。
 それはもちろん、心理的や肉体的なことに詳しい方は、もっと効率的で屈辱的で苦痛の大きなつらいことを海千山千ご存知だと思うんですが、それを僕に教えてくれなくていいです。聞くと痛いです、痛い、痛いですから。あいたたたたた。


 話を戻しますね。僕が言うところの、「最も辛いのは失恋だ」というのは、わかりやすい理由があるんです。
 人間は、生きています。動物も、生きています。何のために生きているのかといえば、それは、生きるために生きているのです。
 ということは、我々は、『生きるために生きている』のです。同じことを言っているようですが、微妙にニュアンスが違いますよ。


 でも、生きているということは、死んでしまうということです。死んでしまうということまで含めて、生きているということなわけですから。
 でも、人間も、動物も、絶滅とかしない限りは、いっくら死んでも死なないではないですか。最終的に生きているではないですか。
 それは何故かといえば、もちろん子供を作って、種を残しているからです。そして生まれた子供は、生きていくわけです。生きるために生きるのです。生きているので当然、いつか死ぬのです。でも、また子供を作って、その子供が生きるのです。で、また死ぬのです。
 だから、なんだか原罪というか哲学的な話になってきそうですが、ある意味我々は全員、『死刑』じゃなくて『生刑』ってのを生まれながらにして受けて、それで生きているわけですよね。


 そういうわけで本能的に、自分の好きになれる人を探して、場合によっては子供を作って、そうやって人間も動物も生きている。なのに、失恋したら、生きていることが否定されてしまいます。生きるために必死に探して、生きるために一緒にいた好きな人が、いなくなっちゃうので。
 またそれとは別に、人間にはやりがいとかが大体あったりします。仕事とか趣味とか散財とか奉仕とかそういうのですね。
 でも、それは全部生きている間の暇つぶしですもんね。みんな本質的には、生きているだけという点では平等なわけで、だから生きていることの理由を大きく否定されてしまう、失恋が一番辛いんだと思うのです。


 とか色々考えていたら『失恋刑』というお話を考えつきました。「被告を失恋形に処す」とか判決を言い渡されて、恋人とは強引に別れさせられ、新たな恋人が出来ても良いところでまた別れる。一生別れを続けて生きていかなければいけない、生命としての根源を揺り動かされる刑罰を与えられた男の話。これって面白そうだけどとっくに誰かが書いている気がぷんぷんします。誰か知っていたら教えてください。
 ところで以前に『少しだけ恋愛的な話』ってのを書きましたが、今回のコラムの方がよっぽど恋愛的な話ですね。先行き考えないで書いてるからこうなる。リアルタイム感をお楽しみください、と逃げ口上を打ってさようなら。