地球は丸いから、いつかまた、会おうね。バイバイ。

 連日になってしまいますが、ライブを見に行ってきたのでたまの話を書きます。
 非常に驚いたのが、完成度の高さ。それぞれの曲の唯一性の高さ。サービス精神とファンへの敬意。本当になんて素晴らしい人たちなんだろうと再認識させられる、とんでもないライブでした。
 ボケちゃって昔の曲のことなんて覚えてない、おっさんだらけのヨロヨロ幽霊バンドですよなんて言っていたのに、謙遜もはなはだしい。10年前の約束をファンと果たすためだけに、時間も収入もかなぐり捨ててリハーサルに明け暮れてしっかりとライブを見せてくれる。しかも、3公演ともにアンコールの曲が違う!
 もうたまをやらないのに、ソロでも2度とやらないかもしれない曲なのに。「今回の3公演全てでやる曲だからこれは練習しよう」ってわけじゃなくて、そのライブに来てくれたお客さんのためだけの、一回こっきりの演奏のために練習して披露。約束以上の物をもらえて、僕はこのバンドのファンであって本当に幸福だったなあと、そしてこの公演が見れて本当に幸せの極みだなあと、会場で心底思いました。


 他にもびっくりしたことがふたつ。
 僕はもう今回のライブを見に行けるのをすっかりあきらめていたのに、ギリギリになって「定価で譲ります」という心優しい方に出会えたので、ライブを見に行くことが出来ました。このチケットを譲ってくれた方は、2枚チケットを持っていたのですが、今回ライブを見に行けるのは僕ひとりだったので、チケットは1枚しかいただきませんでした。もう1枚の行く宛てのないチケットは、僕の知らないたまファンの方の手に渡ったんです。
 そして今日、整理番号順に並んだら、譲っていただいたチケットは連番の2枚だったわけですから、もちろんそこで『僕の知らないたまファンの人』に会うことになったわけです。お互い公演ギリギリになって良い人に会えて、今日見に来れるようになって良かったですね。これも何かの縁ですから、一緒に並んで順番を待ちながら、たまの話でもしましょうか。そんな感じで軽く話しかけてみたんです。
 そうしたら、その人は『僕の知らないたまファンの人』じゃ、ありませんでした。話せば長くなるので詳しくは割愛しますが、数ヶ月前に千葉の海岸の方で元たまメンバー3人が呼ばれて、それぞれソロをやることになった企画があったんです。「まさかその場で一時的再結成なんてこと……」と期待と不安に胸を膨らませたファンが各地方から押しかけて、結果としては本当にまさかの再結成、4曲だけその場で演奏した。ってことがあったんです。
 僕もそのイベントに3時間ぐらいかけて行ったんですけど、帰りのバスと電車で偶然一緒になった女性がいて、その人が今日、いました。その人が偶然、同じ人から同じチケットをもらった、僕の整理番号と連番のたまファンとして、そこにいたんです。
 こんな偶然あるんだろうか。同じ会場にはいるかもしれないと思ってたけど、まさか同じ人からチケットを譲ってもらった仲としてこんな形で再会するなんて。


 あとひとつびっくりしたことは、昨日の話が今日のライブに繋がったことです。
 石川浩司の迷曲『学校にまにあわない』という曲があります。この曲は曲の間に非常に長い語りゼリフが挿入されるんですが、「だって、しょうがないよ」という始まりと「……とさ」という終わりだけが決まっていて、あとは石川さんのアドリブで毎回内容が変わる。今回は3公演とも同じような内容だったらしいですが。
 それもそのはず、非常に石川さんらしい時事ネタが今回は盛り込まれたんです。以下、記憶をたどって大体の内容を抜粋で書きます。


「だって、しょうがないよ。土の中をほじくり返しても、出てくるのは、ケムンパスとかベシとかニャロメとかそんなのばっかりで。ようやく学校に着いたと思ったら、そこには校長先生がイヤミになっていて、シェーって僕を止めるんだ。学校の中に入るにはチケットが必要だって。しかもそのイヤミはネットダフ屋のイヤミで、4500円のチケットを45000円で売りつけてくるもんだから、僕は学校に入れなくて困るし、こっち(たまのこと)はそんな高値がついても、ちっとも儲からない!(客席みんな爆笑)」
「それをなんとかすり抜けると、学校の中では3人の人が音楽をやっていたんだけど、ひとりはピアニカにつける風船を膨らましているだけで音楽をしているようには見えないし(滝本晃司)、ひとりは帽子をずっと被っていて必死に何かを隠しているし(知久寿焼)、ひとりはどう見てもメタボリックシンドロームだ!(石川浩司)」
「学校で教わったようなちゃんとした大人じゃ全然なくって、でも、みんな3人とも、すごく楽しそうに、音楽を、演奏をやっている。楽しい曲だからとか、楽しいように見せたいとかじゃなくて、本当に3人で演奏している姿がみんなとても楽しそうで、僕はそれを見て、『これでいいのだ』。と、思いました。……とさ」


 解散ライブの時も解散してから本を出したときもそうだったけど、石川さんは楽しい人なのに、本当の本当のところで切なくてうれしいことを言ってくれる。この人も赤塚先生と同じく、すごい大人だなあと思わされました。
 そうかー。ダメな大人でやりたいことやってここまで来て、それが評価されて、聞いているみんなが喜んでてニコニコしてて、時折声が裏返ったり演奏が失敗したり、毎日昼過ぎまで眠ってたり酒飲んで酔っ払いながら演奏してみたり、でも、『これでいいのだ』。なんか全てが救われた感じがした。無理しなくて良いんだなあ。
 ちなみに、一発屋的にたまがミュージックステーションに出たとき、タモリは「インディーズ時代のカセット俺持ってるよ」と発言していました。あの異常なさよなら人類ブームのとき、そんなことを言った音楽番組司会者はタモリだけです。なんだか、繋がるなあ。


 この後の話はたまファンにしかわからない話をどんどん書くので、興味がない人は読まなくて良いです。僕が好きで書いているだけの文章の、真骨頂です。コミケがらみの話とかは明日以降だ! だってしょうがないよ、今日はたまのライブだったんだもん。とさ。


 では、セットリストを備忘録的に。
 作詞家として歌詞につけるタイトルはいつも悩みます。インストでない限りは作曲者が歌にタイトルをつけることはまれで、作詞家は最終的にその歌のゴッドファーザーになることが多いのです。こうして一連のたまの曲のタイトルを見ると、「見事に名づけたなあ」と感心します。タイトルを見るだけでも、その曲への興味がわいてくる。そんなタイトルをつけなければいけないと僕は思っていますが、この人たちは三者三様にそれが出来ている。お見事。

1.326
2.あるぴの
3.青空
4.ラッタッタ
5.家族
6.ぎが
7.電車かもしれない
8.学校にまにあわない
9.らんちう
10.ぼけ
11.ハゲアタマ
12.さよならおひさま
13.月のひざし
14.雨のイキモノ
15.カカポ
16.安心
17.夢みているよ
18.ガウディさん
19.レインコート
20.ハダシの足音
21.デキソコナイの行進
アンコール
22.ハオハオ
23.学習
アンコールその2
24.夜のおんがく
アンコールその3
25.まちあわせ

 個人的に印象深かった演奏を順を追って。326が始まった瞬間の、場の空気を一瞬で変える3人の存在感の凄さ、ラッタッタの異常なまでの盛り上がり、青空と家族のコーラスワークの重厚感。電車かもしれないや学校にまにあわないのパワフルな演奏。さよならおひさま〜月のひざし〜雨のイキモノに至る落ち着いた世界観。MCから「そういえば」と話題を切り替えるように見せかけて唐突に歌い始める(そういう演出だって言うのは知っていて、身構えていたのにやられた)ハゲアタマ。レインコートとハダシの足音の、滝本晃司三拍子ニ連続。
 どれもこれもとんでもなくて、「こういう作品をひとつずつでも作り上げて行きたい。それを世に出して行きたい」とクリエイター心を揺り動かされるものばかりでした。


 年をとって涙腺がゆるんでいるとか言うわけでもないんじゃないかなあと思っているのですが、今日のライブの最後では涙がこぼれてしまいました。昨日に続いてです。感動で涙を流すなんてことが二日続けて起きるというのは生まれてはじめてですし、他人に囲まれた状況で涙を流せるほど感動したのもはじめてです。
 それは、また石川さんのせいです。アンコール前の最後の曲、『デキソコナイの行進』。この曲はこんな歌詞なんです。

やがてデキソコナイたちの歩調と角度がずれていく
空にはカラス カァーと輪を描いた
いつのまにかひとりひとりてんでバラバラ
バカだねそれじゃもう行進じゃないよ
デキソコナイ達の行進がゆくよ
デキソコナイ達の行進がゆくよ
地球は丸いからいつかまた会おうね
バイバイ


 この歌をラストで、3人でハモりながら歌い上げているだけで感動するのに、ラストのフレーズで石川さんは言うんですよ。「こんなふうにね」って。「いつかまたこんなふうにね、会おうね」って付け足して歌うんですよ。
 これで終わりなのかもしれない。これでもう、二度とたまは見れない可能性の方が高い。でも、「絶対にやらないよ」なんて言わない。「客が来るからまたやろうか」とも言わない。終了宣言も再結成告知もしない。でも、地球は丸いから、またいつかこんな風に会おうって、ステージ上で、ファンにもう一回約束をしてくれたんです。
 僕はよくわからない感情になって、泣いていました。
 僕はよくわからない感情にして、泣かせるものを作りたいと思いました。
 あと、3人がMCとかで絡んでるんだけど、すっげー仲良いの。それもたまりませんでしたね。ずっとこの人たちこうなんだろうなって。解散とかそれほどこの人たちにとって重要なことじゃなかったのかもしれないなあと解散から5年経って気づきました。最後に3人がそれぞれ自分の作品とかライブの告知をしたあとに、滝本さんが「やっぱり石川さんは一番話が面白いよなー」と感心した言葉を漏らして大笑い。笑うし泣くし切なくなるしノリはいいし歌詞は沁み込むしで、こんなライブならそりゃ10倍や20倍の値段をはらってでも見に来るよ。本当に見れて良かった。
 大歓声の中、鳴り止まない拍手の中、3度のアンコールに応じてくれるその姿勢。どうやら3回目のアンコールは想定外だったような感じがしました。最後にやった曲だけ、別の回のアンコールでもやってますしね。そして全てが終わってもずっと鳴り続ける拍手、誰もが両手を高々と上げて叩く拍手、飛び交う歓声。それを受けながらずっと深々とこちらに向かって頭を下げているたまの3人。素晴らしい演奏にこちらが感謝しているなら、この反響にこの人たちも感謝の姿勢をずっと見せてくれている。どれだけファンに対して優しいんだろうと、プロっていうのはこういうものだと、考えさせられる場面でした。ダメな大人とか言っておきながら、ちゃんとしすぎだよ。約束を守りすぎだよ。


 以上、たまのことが気になっている人、たまのライブレポートを望んでここにやってきてしまった人、そんな人に向けて書いてみました。あともちろん僕にも向けて。
 多大な精神的影響を受けたので、創作に活かします。
 これから、昔発売されたけど絶版になっていた、だけど今回のライブをきっかけにしてDVD化された『しょぼたま』を見ることにします。ライブを反芻しながら、もう一度堪能します。生じゃないけど好きなときに繰り返し見れる分だけこういうのは良いですね。
 気になる方は、こちらで売っているので気にしてみてください。僕のオススメは、『たまネパールに行く』です。ネパールの世界的音楽イベントに、なぜか日本代表として呼ばれてしまったたまがどう受け入れられたのか、そして街頭でのしょぼたま演奏がネパールではどんな反応になったのか。非常に面白いです。
 また、僕がこれだけ褒め称えた本日のしょぼたまライブも、ひょっとしたら映像化されるかもしれません。撮影の方がいらっしゃったので。僕のファンであったり遊女さんのファンであったり闇;灯のファンであったりするからと言って、一石楠耳の好きなものまで好きになることもないと思いますが、でも、単純にオススメします。
 たまは良いですよ。再評価の波は訪れていると聞きます。特に、ただの一発屋の色物バンドだと思っていた方は、その懐の深さに一度は触れておくべきだと思います。音楽好きならば尚更だと、あえて断言させてもらいます。
 ここまで読んでるのたまファンかよっぽどの一石ファンしかいないだろうから、強気の発言しちゃった!(小心者)