あの朝日新聞の勧誘め

 昨日に続いて私怨の怒り。でも今日のは本当に怒ってる。
 家の近所に朝日新聞の販売店がある関係で、頻繁に朝日新聞の勧誘員が家にやってきます。僕は新聞は現在必要としていないので「すみません、新聞は取らないんです。このご時世勧誘も大変ですね」と言ってお引取りいただくんですが、ひとりちょっと年の行った、偉そうな勧誘員におかしな奴がいる。その人以外は常識的でいい人たちばっかりなんだけどなあ。
 インターホンが鳴って、モニター越しに応対したら「引越しの挨拶で来ました」って言うんですよ。そりゃ出なきゃと思って玄関の扉開けるじゃないですか。そうしたら、「いやね、ウチの若いのがこのマンションに越してきて住んでるんですけど、自分朝日新聞の勧誘やってるんですよ。一石さん、新聞取らない?」とか言い出す。
 絶対嘘に決まってるじゃないかそんなの。もしそれが本当なら、そのウチの若いのって人が直接勧誘に来るだろうし。そもそも「引越しの挨拶です」ってのが扉開けさせるための大嘘だし。
 あからさまに腹を立てて、「新聞は取る気ないんで」って言ってドア閉めて帰ってもらいました。


 そんなことがあったのが数ヶ月前だったかなあ。で、昨日。またインターホンが鳴って、モニターを覗いたらおっさんが玄関前にいた。
 「はい?」って出て話しかけると、「一石さん?」って僕の名前を呼ぶ。「なんでしょうか?」と聞くと「……なんですけど」とよく聞こえない。「あの、聞こえないんですけど、なんですか?」「……なんですよ」声が聞こえない。なんだよもう、水道屋が来る予定だから待ってるんだけど、その人か? と思っていぶかしがりつつも扉を開けてみる。
 ドアを開けたら相手はしっかり聞こえる声で喋り始める。ドア開けさせるために、わざと自分が何者なのかを濁して、声を小さくしていたってわけだ。途端に嫌悪感を感じて、同時に既視感も感じる。
 こいつ、引越しの挨拶だって言ってきたおっさんにやり口が似てるな。いや、こいつだ。こんな顔だったぞそう言えば。しかも外回りの訪問仕事にしては異常にタバコ臭くって、前に立っているだけで気持ちが悪くなる。うわ、そうだ。あのときの奴もこの臭いが鼻についた。
 おまけに「一石さんは、この辺に引っ越してきたのは最近なの?」とか言い始める。新聞の勧誘とは切り出さずに、まずは世間話的なところから攻めていこうってつもりなのかもしれないけど、おっさん前に会ったときにもその話したよ。というか、手口が姑息なだけじゃなくて、訪問した先の相手のことも何にも覚えてないんだな。どんだけ朝日新聞の勧誘員のイメージ下げるんだこのおっさんは。職場の仲間に迷惑かかるだろうがよ!
 揚々と話すおっさんの話を遮って、「何、新聞? 取らないよ」と言ってさっさと扉を閉めた。


 ここではないところに住んでいたとき。新聞勧誘に熱心な人がいて、すごくいい人なムードが漂ってて、何度かその人から新聞を取っていたことがありました。
 でもある日から「やっぱり新聞はいま必要ないな」ってことになって、取るのをやめたんです。だけど勧誘にはノルマがあるから、以前取ってくれていた人が新聞をもう取らなくなってしまうのは、勧誘員からしたら死活問題。「なんとか、なんとかお願いできませんかね?」と懇願されました。
 その懇願の最後にその人が言ったのは、「わかりました一石さん、じゃあわたし、今回新聞を取ってくれたら、もう二度と購読のお願いには来ませんから!」という言葉。ついに最後の切り札を出してきたわけです。僕はその人自身の人となりも好きだったし、最後の切り札の言葉に負けて、結局そのときは新聞を取ることにしました。
 そしてその勧誘員は、その新聞の契約が終わると同時に、本当に二度と僕の家に勧誘には来なくなったのです。購読延長のお願いの言葉も出ず、自分の発言を覆すことなく、すっと身を引いたのです。
 近所に住んでいる様子で、家の近くのスーパーで顔を見ることもあるような人だったけれど、本当に自分で言った通りに勧誘にはもう現れなかった。
 僕はあの人だったら、あの人が本当にノルマを果たせなくて困っているようなら、新聞をまた取ってもいいかなと思った。営業努力ってこういうのであって、人をだましてドアを開けさせるのは技術でも何でもないです。
 あのこすいおっさんこそ、二度と新聞勧誘に来ないで欲しい。僕の家だけじゃない、どこの家にも勧誘にもう行くな。