その天才集団は、『いついなくなってもいいようなねこ』のような名前を付けた

 つい先日、赤身マグ朗と共に僕は話したのですが、日本で正当な評価を受けられなかった2大バンドは、ブルーハーツとたまだったと僕は語りました。ブルハはもっともっと上の伝説にならなければいけなかったけれど、日本には既にそういう存在が求められていなかった。カリスマが必要ではなかった。むしろ享楽的に人々が求めていたのは、見た目が奇異な一発屋だった。
 当時のインタビューなどを交えた本に、こんな記載があるようです。

たまの悲劇。
日本歌謡史に、そう呼ぶしかない現象が起きたのは、昭和が平成に変わった年のことである。
それは、芸術家として音楽をやろうとした四人の青年が、世間によって見世物にされるという珍事だった。

 また、こんな話もあります。

当時『週刊明星』のインタヴューにおいて、ヴォーカルの知久寿焼は、 「百人のうち三人がボクたちの音楽が本当に好きで、あとの九十七人が“そんなに言うならちょっと聴いてみよう”ってレコードを買ってるってことです、たぶん。もし、百人が百人たまをいいと思ったら、気持ち悪すぎます」と、極めて的確な状況認識をしている。
彩流社刊「歌謡界一発屋伝説」より)

 バンドブームの中、本来ならアングラな所にいたはずのバンドが上へ下への引っ張りだこで、最終的には紅白歌合戦にまで出るという異常事態。しかしその異常事態を一番冷めた目で見ていたのは、彼らだったと言う。「どうせこんなの一過性のものだよ」と。それは、自分たちのやっている音楽がどういったものかがわかっているからで、そして自分たちのやっている音楽に自信を持っているからだ。
 たまが一発屋として認識されているのは、その外見や歌詞もそうだが、フォロワーが現れなかったことも大きいと思う。噂に聞くと、aiko銀杏BOYZ峯田和伸はたまファンだったようだが、同じ道を歩まなかった。高音で奇妙な歌を歌うことも、桶を叩く事もしなかった。何故なら、それを最もうまくやれているのは『たま』であり、唯一無二だったからだ。音楽家でたまを好きになった人たちは、彼らと同じ道を歩みようがない。彼らのことを「好きだ」と公言しつつ、自分の音楽性や声質にあった活動をしていかなければ、音楽家として成立することは出来ないだろうと僕は思うのです。
 たまのフォロワーは、音楽関係よりも演劇関係に多いと聞きます。「当時、あの個人演出力に衝撃を受けた」と語る人物は、舞台やテレビや映画において、その表現力の源流に『たま』を置いているそうです。
 僕は、歌詞の書き方と、音楽と言うものを、たまの四人から教わりました。


 そろそろ動画を紹介。
 その技巧、ギター・オルガン・ベース・パーカッションの一体感、グルーヴ、コーラスのうねり、語りの奇妙さ、組曲的構成。歌詞の恐ろしさにだけ気を囚われず、歌詞の深さにもはまり込んで下さい。この曲でメインボーカルを取っている知久寿焼は、作詩家としても非常に高い評価を受けている人物です。さよなら人類のような、無意味歌謡とは違うんだぞ!(笑)
 いや、さよなら人類も名曲なんですけどね。本人が歌詞を勢いでつけるタイプの人なので、タイトルのインパクトや時代性の割には別にメッセージも何もなかったという、要は煙に巻いたんですな、バブルの終りを。
 さて、話を戻します。今回紹介する曲は、『たま』で、『かなしいずぼん』。

 不安定かつ異常にかっこいい、四人の呼吸だけで合わせているイントロから始まり、全く同じ調子でかき鳴らされるギターの不気味さに彩られつつ、歌い上げられる子供の思い出。ブイブイ要所で響くベース、飛び回るオルガンの音色。そしてパーカッション・石川浩司による、アドリブのセリフ。ここのセリフは、演奏のたびに変わります。
 そして脂の乗り切った時期の彼らの恐ろしいかな、石川浩司のアドリブの中に「サル」と言う単語が出てきた途端に、更にアドリブで乗っかる、さよなら人類メインボーカルの柳原。そのアドリブに横目で乗っかっていく知久寿焼。わが道を行きベースを引き続ける謎の存在感、滝本晃司(本当にこの人はいつも、サポートメンバーみたいに見えるな)。
 しかし本番はその後です。石川の叫びに応じるようにして始まる、四者四様のコーラスの絡み。「無意味な高揚感、それこそが芸術だ」と思わせてくれます。理由なんてなくていい。最初から最後まで、きっちりとやりきって終わってくれる。たま4人時代の大名曲、かなしいずぼんを、是非どうぞ。
 尚、柳原陽一郎脱退後の3人時代のたまについても、いずれ触れる機会があると思います。
 また、余談ながら、メンバーによるある日のセッションで曲のアイデアが膨らみ、それを各自持ち帰って後ほど完成させてきたのが、『かなしいずぼん』と『さよなら人類』と『学校にまにあわない』だったそうな。その3曲がここに融合する、奇跡のライブ映像です。ああ、このライブ見てみたかった。