約束

ここでやさしく なでまわされてる 腕や毛や腰 とてもやさしく 消えていければ とてもいいだろう 消えていくんだ もう決めたんだ 僕と一緒に 君も消えよう そして一緒に 空を見上げよう 新しくなった 朝も迎えず ここできれいな 肌のままいよう 先にゆがんだ …

 ◯◯へのカウントダウン

そっと目を閉じると 指が焦げる匂いがして この導火線が…… この導火線が 水浸しの家と落っこちて来る階段 歯を食いしばって 何度も踏み外す 何度も踏み外す 固いそこにぶつかってバラバラの終わりが来るのを知っているのに 何度も踏み外す あるいはそれを望…

 ユキミチ

……誰も 口にしなくなった並木道を 不自然な僕らと雪がまた 降りる 駅はそこ ……誰も はしゃがれなくなったこの日を 笑う僕らと雪が はばむ 電車が動き出す 切符は先まで買っていた 雪を雪と見違えて 積もり行く様を 夏を夏と見違えて 溶け行く様を 風を風と見…

 残暑見舞い

日差しに虫が卵を産みつけている たぎるアスファルト 鳥の卵も孵る 差し込んだ夕日 今日も真夏日だ 明日も真夏日だ 夏が孵るから ゆるやかにとろけていく氷と 同じ速度で僕は走っている そうしてようやくたどり着けたのは つつがなく暮らせる日々かな ボンネ…

 ぼっちの英雄譚

ねじれてる木の枝 あっちやこっち伸びて 陽の光差し込む スキもない森の 野ウサギの足跡 消えた井戸の底 歪 でも 鏡のように目を映す 欠けた牙をぴっかり光らせ 唸りを轟かし よだれをダラダラして 現れ井戸の主 目を開けると揺れてる部屋 わずかな漏れ灯り …

 最後の灯り

木漏れ日の灯り 染み渡って消えてく 手にぬくもり残して 街の灯り消えてく 月の灯り消えてく 世界中に散らばる 灯りも 暖炉の灯り 銀の灯りと ネオンの灯り 鏡の灯りと 瞳の灯り 消えたら 息吹もかすかに まぶたを閉じる ぎゅうっと 灯りも…… 東の灯り 虫の…

 君の睫毛が凍るから

君の睫毛が凍るから まばたきで雪の結晶が 僕の部屋にとめどなく もうこの寒さもう充分だよ 綺麗な白だよ 研ぎ澄まされた視線 突き刺さる先は気高い 君のお庭 冷たい指で浚う 月飲み場の庭の君が 色とりどりの扇子を 開いてすぐに閉じるみたいに まばたきの…

 あなたに会うのは二度目です

あなたに会うのは二度目です 手と手がちぎれて僕の向こうの 空気を見つめる瞳にゾクゾクして 微笑んで離れて二度目です あれから一人で街を満たし 主に動悸とため息で部屋を満たし 満たされないものには拾い集めた 落ちていた時間を押し込んで 体が自分に嘘…

 羽根真似

ハーモニカを通してでしか呼吸をしないなら 吸うと吐くの間に喋っているように 音が鳴る 僕 「これより羽根が生えますので 乳幼児の閲覧を禁止します」 するすると鈴の模様のカーテンを閉める 君 やけにはしゃいで そう、犬が来たんだ 君の羽根がもう生え終…

 花(但し夢に於ける)

阿々 睡い 枕頭に茶葉が散って居る 誰か拾い集めといて下さい 散りっ放しじゃ夢見も悪かろうに 微睡む何て矢張り罪悪だ 早く茶葉を集めて下さい 早く睡らして下さい 茶葉を吸っては酷い夢を見る 今日も夕方の頃は睡りたいのです 阿々 睡い モウ彼此半日はこ…

 時間はもうないのだ

背中を見つめてると 埃が散らばると 8月の夢みたいな とろけたバスが来る 枕元で排気が 安心のように満ちて 僕は君の動かない まぶたに手を振った 時間はもうないのだ 時計を戻しておこう 二人だけが知ってたあの時間に 針だけでも戻そう 二人だけが知って…

 疲れて座って

見つめられないものを 見つめている視線も 疲れ果てて座って 今日はもうダメだ 眠ってしまおう 怠惰を煮込むスープを 温めなおす毎日 今日も明日の朝も スープの匂いが 立ち込めてばかり 床の影の模様と 僕の顔が同じの 価値を持った一日 闇が包めば どうせ…

 にぶい

水の中なので動きが鈍い 目覚めたとたんに視界が揺らいでいる 水流が起きればそれに身を任せて 息が詰まるまでずっとずっと底で緩やかに 煙に満ち溢れた街の風景を 立ち込めるスモークにまぎれて歩いて向かう 吸った煙が肺に留まると星が過ぎ 空がぐるぐると…

 指よ届け

重く、暗く、静かで、滾る、苦みばしった、 コーヒーのような姿でいられたなら だけれど、僕は、いつも、力無く、青白い、 ラムネ菓子のような指で文字をなぞるだけ 目を開けば鏡に映る自分に絶望して 目を閉じれば脳裏に浮かぶ自分に絶望する 合わせ鏡の間…

 老いさらばえ

老いた骨身に鞭打って 逆さに世界を駆け行く しわがれた声の唱える 呪文はあなたの名前の 響きに似ていて呼ばれた気がして 振り向いた先に老人千名 その年輪にめまいをおぼえ 見上げた先には空模様 老人一名重ねた年は あなたが重ねた月日の何倍 老人千名重…

 羽虫の憧憬

眉に寄る皺の数だけ時は流れ 闇夜を掻っ捌いて不安にも似たそれが注ぐ コンビニエンスストアの捕虫用蛍光灯のみに照らされていた 僕の死骸がとうとう白日の下に晒される 秋の夢は冬に死に 冬の夢は春に眠る では夏の死骸はどうだろう すえた臭いを発して虫を…

 落ち着ける場所

眠ることが怖くって 目が覚めるとまた繰り返してしまいそうだから ため息をつきながら起きている また今日も頭がおかしくなる時刻 落ち着ける場所の夢を見る 君が笑って僕が笑う部屋や どこかから帰る電車の座席や お茶とゲームの窓辺や ねこの毛に顔をうず…

 新世界にようこそ

街路樹に漂う歌の世界侘しさは弾丸のたたずまい夢の夜逃げの光景を見ながら何を思い出そうとしていたのかも定かじゃないシビアな光が丸みのない町に降り注ぎ直線の影が僕を潤す痛みのないクズ籠なんてまっぴらだ牛の勇壮ないななきが牛を怯えさせる溝にはま…

 パノマラデリュージョン

あっちこっちで狐が鳴いてるね コンコンコンコン何かを扉に打ち付けてるみたい いまに広がる景色が燃えていくよ 残っていくのは夢の景色とまぶたの裏のシワさ だってこの世にいまいない人だから 何度も飛び降りてぐちゃぐちゃになっても 何度も呼びかけてぐ…

 それだけを頼りに

葡萄をかじりながら歩いてきた 道端にへばりついてうねっているのは 僕の影なのか誰の影なのか とにかくそこにはピアノが眠っていた 眠っているピアノを強引に起こして 寝ぼけた音色の鍵盤に触れている だけれど決してうまく弾けることはない 何故ならその影…

 抱いて

コホコホと咳き込むごとに 僕の中から漏れるものは何だろう 伸びすぎた爪を切るごとに 僕の先から消えるものは何だろう 疑問を抱えながら眠りにつく この血の落ちて溜まる丸い池には 全てのものが黒いルビーのように 色づけされて反転で映り 肌のしみが広が…

 さよならさようなら

さよならさようなら みんなみんなここでさようなら まだこの先いくつか階段が残っているけれど 僕はもうここでさようなら 食べ残したおかずの行方が気になってるけど 僕はもうここでさようなら だってこれ以上息を吸ってても ずっと息を吐いているだけだし …

 2月6日

スイッチの入っていない扇風機の首が動き始めた 季節外れの月光が湖を満たした アンディ・カウフマンが死んでから何年経った 労働者は身じろぎもせずにいつもと違う会社に向けて出社した 皿を食らわば毒までとはよく言ったものだ 喉には破片と染み込んでいく…

 歩くのは面倒だ

面倒くささの中で食べる朝ごはん だけど時間はとうに昼を回りもう3時だ それは起きることも作ることも食べることも 全てが面倒でどうでもよかったから 窓の外では風がひどく吹いている 干してあるタオルが激しくたなびいている もうこれ以上生きていくのが…

 失笑

いつも何かを失ったような たまらない笑顔で 僕らは会うんだ いつも笑顔なのに どこから見ていても幸せそうじゃないんだ 窓の外には列車が 定期的に走り続けていて 近くの踏切が 定期的にカンカンと鳴っている 赤く点滅する光と音と 列車の走る風の勢いが 僕…

 神経衰弱

お皿をわざと取り落して 割れる音色に聞き入っている 耳を澄ませば 昼の音色は緑色だよね だってそうじゃない? 線香花火をバチバチと 頭の上で光らせて燃やして ぽとりと落ちるまでの時間を ストップウォッチで計り続ける そんな午後は緑色に染まるよ だっ…

 憂鬱は朝

憂鬱は朝 視界は朱色 覚めても覚めてない 夢は腐り漂う 友達が揃い 祝われる席 ナイフを入れられる鶏、ケーキ 「おめでとう」とか そんなのダメだ 心を抉った幸せが不幸を残して去っていく 鶏やケーキの味わいで心が溢れて止まらずに ベッドの上での思い出が…

 世界とピストル

薄暗い雲 消灯寸前の電気 膨らみきった泡 覚めかけの夢 そんなものばかりをかきあつめて 一箇所にまとめておいたから 後で見に行くといい きっとそこには世の中のくだらなさが 自動的に更新されていく ピストルであちこちを撃つ 空や壁や水や宴や パンパンと…